【特別対談】医療現場と高齢者等終身サポート事業者の最前線 “おひとり様”の社会課題解決への道筋
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高齢化がより深刻となる中、医療現場の最前線で身寄りのない“おひとり様”の社会課題に向き合う社会福祉士・メディカルソーシャルワーカーの鎌村誠司さん。今回、20年にわたり様々なお困りごとに寄り添い、解決してきた鎌村さん、そして(一社)身元保証相談士協会の代表理事を務め、高齢者等終身サポート事業者の全国団体立ち上げに奔走する黒田との対談が実現しました。
目次
退院後の入居先をどうするか?
深刻な住まいの問題
黒田- 本日はよろしくお願いします。鎌村さんは、メディカルソーシャルワーカーとして様々なお困りごとに直面されてきたと思います。どのようなスタンスで関わってこられたのでしょうか?
鎌村- 病院やケガで入院したときというのは、その人本来の力が発揮できる状況ではないですよね。そういうときでも、その人がその人らしく自分の人生を全うできるように、我々が支えるというスタンスで支援していました。
黒田- おひとり身の方、資力が乏しい方に対する課題感はいかがですか?
鎌村- 生活保護の方は、医療費も家賃も出ますから、逆に大きなお困りごとはないんです。おひとり身の方が一番苦労するのは住まいの問題で、家を借りるときの保証人がいない、緊急連絡先がないという問題は深刻ですね。
黒田- 退院後、転居できない、施設に入居できないという問題ですね。現実的に、退院後自宅ではなく老健(介護老人保健施設)、特養(特別養護老人ホーム)に行く場合の施設の方々とのやりとりはどのようになるのでしょうか?
鎌村- もう、お願いするしかないですよね。ただ、ずっとそのまま対応していただくというのは違うので、判断能力が低下している方に関しては後見人がつくまでの間お願いするような形です。それが難しい場合は、地域包括支援センターの方や行政に関わってもらい、相談の中で進めていきます。身元保証人をどうするかの問題は本当にケースバイケースで、人それぞれ周囲との関係性なども全く異なるため、都度対応していくしかないですね。

とにかく必要なのはマンパワー
人材の確保には相応の資金も必要
黒田- これまで様々なケースに対応されてきたと思いますが、鎌村さんがこのおひとり様問題の解決において必要だと思われることを教えていただけますか?
鎌村- 難しい質問ですね。まず1番に人、2番目にお金、そして3番目が管理監督の仕組みでしょうか。何より人。AIだとか、様々な機器によって代用できることがあるとしても、実際におひとり様と関わって、意向を汲み取りながら対応していくのは“人”ですから。
鎌村- 加えて、この仕事は決して誰にでもできることではないです。遺言、お金の管理、お部屋の片付け、不動産など、それぞれ専門家に割り振るにしても非常に多くの対応が生じます。それに対してベースとなる知識、スキルは不可欠で、そうなると人材が限られます。人材の確保にお金がかかるのはもちろん、利益相反などの問題も絡んできますので、そう簡単なことではないですよね。きちんと寄り添って対応できる人への報酬も必要なわけで、税、社会保険など、規模としてやはり公的な資金が必要だと私は考えています。そして、管理監督できる仕組み、透明性を担保することも不可欠ですね。

誰にでも務まる仕事ではない難しさ
事業者の管理・監督体制強化へ
鎌村- 今まさに黒田さんが関わっていらっしゃる全国団体もそうですし、民間の力は絶対的に必要だと思います。非常に社会的意義の大きな仕事ですし、その分責任もある仕事ですよね。
黒田- ありがとうございます。本当に、まずは人ですね。そして鎌村さんのおっしゃる通り、人は必要だけれども誰でもよいわけではないというのもポイントだと思います。身元保証人として名前を書いて終わりではなく、その後の生活、死後の精算まで、その方のご意向を汲んで寄り添った対応をしていくだけの知見、対応能力がある人が必要ですし、その方々に対する報酬が必要になります。それを管理監督する団体、ルールや統制がないと、寄付金などの問題も含めて、グレーな印象になってしまいますよね。健全にやっているかを監督する団体、ルールが必要だと考えています。
鎌村- こうしたおひとり様に関わる仕事自体がもっとメジャーになることも重要だと思っています。人生においてすごく大事な問題なのに、現状を知られていない。身寄りのない方は、役所でも病院でも排除されて、藁にもすがる思いで高齢者等終身サポート事業者に行き着くわけじゃないですか。それこそ、今後は学校の授業で扱うとか、健康診断の機会なんかに定期的に伝えていったほうがいいと思うんですよね。
黒田- なるほど、それは面白いですね。どうしてもネガティブなニュースばかりが取り沙汰されてしまいますが、我々身元保証等終身サポート事業者が国や行政との連携を深めながら、建設的でポジティブな発信を意識したいですね。
11月に初の全国団体が始動
“おひとり様”問題が前進へ
黒田- この問題の難しいところは“おひとり様”の基準のあいまいさにもあると思います。仮に、おひとり様に税金を投下するとなったときに「私はおひとり様です」という申し出があればそれでよいのかといえば、そうではなく、何をもっておひとり様と呼ぶかの線引きが非常に難しい。こういう方が取り残されないようにしなければならないですが、その仕組みづくりは一筋縄ではいかないですね。
鎌村- 国がようやくこの問題を真剣に考えなければと気付き始めたところですが、現実に様々な問題が起こらないと洗練されないでしょう。
黒田- 11月には、業界初の全国団体が立ち上がります。私自身もこの全国団体に参画する中で、おひとり様に健全に対応できる仕組みづくり、方針づくりに引き続き携わっていきたいと思います。

鎌村 誠司(かまむら・せいじ)
社会福祉士。済生会神奈川県病院にて、約20年にわたり医療ソーシャルワーカーとして勤務。現在は社会福祉会で障がいをお持ちの方の後見人として活動しつつ、障がい者福祉施設に勤務。横浜市のNPO法人で法人後見も務める。

黒田 泰(くろだ・ひろし)
一般社団法人 身元保証相談士協会 代表理事。オーシャングループ代表。大手コンサル会社勤務時代に、身元保証に関する法律スキームを確立。現在は国内最大級の身元保証団体を運営し、高齢者等終身サポート事業の全国団体の立ち上げに尽力。
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