「すべての子どもたちが夢や希望を持てる社会へ」――。学習支援に留まらない、キッズドアの「居場所づくり」

公開日: 2024年05月18日

更新日: 2024年05月18日

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「お金で苦労している親に、大学に行きたい・留学したいという希望を言い出せない」、「不登校、いじめ、障がい、外国にルーツがある。そんな差別に苦しんで、将来に夢を持つことができない」――。ひとり親家庭の子どもの2人に1人が貧困状態で暮らす国、日本では、多くの子どもたちが困難を抱えています。生まれた境遇に関わらず、子どもたちが夢や希望を持ち、いきいきと成長できる社会を目指す認定NPO法人キッズドアの「居場所づくり支援」にかける想いを理事長の渡辺由美子さんにお聞きしました。

キッズドアの活動について教えてください。

子どもの支援を掲げるキッズドアでは、大きく3つの活動を行っています。
まずは教育格差解消に向けた「学習支援・居場所支援事業」。経済的に困窮し、有料の教育サービスを利用することができない子どもたちへの「学習支援」と、居場所や食事の提供により、困難を抱える子どもたちが安心感を得られる場を提供する「居場所支援」を行っています。

2つ目は、子どもだけでなく、困窮する家庭全体を支援する「ファミリーサポート事業」。子どもに十分な食事を提供することができない家庭への食料支援に加え、給付金や奨学金、オンラインセミナーなどの情報支援や、安定した収入の確保を目指す保護者のための就労支援を行っています。

そして、日本中のすべての人々に子どもを取り巻く課題を「自分ごと」として捉えていただくための「調査・提言・啓発事業」。支援の現場を通してわかる子どもの貧困の実態を、調査や提言にまとめて政府や社会に発信するとともに、全国で同じ志を持って活動する他団体の運営支援にも力を入れています。

2023年はどのような1年でしたか?

2023年は長引くコロナ禍の影響と前年からの物価高の為、ひとり親家庭は非常に厳しい状況に置かれていました。子どもにだけは3食を提供しようと自分の食事を切り詰める親御さんも多く、それでも子どもに満足に食べさせることができないことに強く責任を感じてしまっています。

子どもたちも、困窮する生活の中で目の前の現実に精いっぱいで、自己肯定感も低く、将来への希望や夢を持てずにいます。

このような家庭に向けた「緊急支援事業」として、夏と冬に緊急食料支援を行いました。子どもたちへの学習支援だけでなく、 困窮子育て家庭への支援も、2023年の取組みの大きな柱となりました。

一方、日本全国で困っている子どもたちの支援を、キッズドアだけで十分に行うことはできません。子どものために頑張りたいと取り組まれている団体は、全国に数多くあります。私たちの身近なところで苦しむ困窮家庭への支援にとどまらず、そうした同じ志をもつ他地域の団体も支援し、併せて社会や行政に向けた広報・啓発にも取り組みました。

キッズドアの歴史について教えてください。

私自身の子どもの同級生にいたひとり親家庭の子に接し、その子が夏休みにどこにも出かけられない実情をみて何か出来ないかとの思いから、任意団体を立ち上げたのが2007年です。

最初は博物館に行くなど体験活動が中心だったのですが、始めたばかりの学習支援がある時新聞記事になり、全国から「勉強を教えてほしい」という電話が殺到。お電話をいただいた全ての家庭をお受けすることはできませんでしたが、そのとき学習支援の重要性を強く実感し、2010年から学習支援に特化することにしました。

その後、東京と宮城で小学生から高校生世代を対象に、毎年2000人以上の子どもたちへの学習支援を実施、併せて全国の高校生に向けたオンラインでの学習支援も行っています。

コロナ禍により厳しい状況に置かれている子育て家庭を対象に2020年から開始した「ファミリーサポート事業」を通じて、それまでは子どもを通してしか分からなかった困窮子育て家庭の実情が見えるようになってきました。

現在では、子どもへの学習支援とともに、ひとり親家庭をはじめとした困窮子育て家庭への支援にも力を入れています。

これまでの取り組みで、印象的な出会いを教えてください。

居場所支援事業の1つとして、東京の東部で中学生のための「居場所を兼ねた学習支援事業」を行っています。その事業を始めた頃に参加していた生徒さんが強く印象に残っています。

その子はひとり親家庭で、学校にも通えておらず、キッズドアの居場所支援事業を利用していました。居場所や食事を提供し、会話をするなかで関係性を深めていったものの、中学校を卒業したあとの進路については、勉強も得意ではない、とはいえ卒業してすぐ働けるわけでもなく、ずっと考えあぐねていました。

しかし、都立高校の出願締切日の前日、「実はやっぱり高校に進学したい」と打ち明けてくれたのです。それを聞いたキッズドアのスタッフは急いで出願に必要な書類を整え、学校にも連絡を取り、なんとか出願に間に合わせることができました。

単位制の高校に無事進学することができたのですが、中学生時代はほとんど学校に通えていなかったこともあり、高校1年生の1学期が終わったころ、取得できた単位は1つもありませんでした。高校の先生からも、「高校1年生の1学期で単位が取れなかった生徒で、卒業できた生徒はいない」と、通信制高校への転校も勧められてしまったと言います。しかしながら、その子はスタッフの励ましも受け、学校に通い続けました。結果、最終学年では最優秀生徒として卒業式で答辞を任されたのです。

高校卒業後、老舗の料理屋に就職したその子が「名刺交換してください」と挨拶に来てくれました。大変な状況にある子どもたちも、継続的に伴走していくことで、これほど立派に成長できるのかと実感させられた出会いでした。

キッズドアへの寄付はどのように活用されますか?

キッズドアの活動は、ご寄付によって支えられています。いただいたご寄付は、学習支援のための教材や文房具にかかる費用、無料学習会の運営費、困窮子育て家庭への食料支援にかかる費用、子どもに勉強を教えるボランティアへの研修費や事務局運営費など、様々な場面で活用しております。

キッズドアへの寄付でできること

たとえば…

  • 10万円で生徒30人の1教科分の教材になります。
  • 100万円で無料学習会の受験生60人が、年2回模試を受験できます。
  • 1,000万円で約7500円相当の食料を1,300世帯の困窮子育て家庭に届けること

ができます。

キッズドアの支援を利用する家庭の声

子どもたちの好きなチキンライス、やきそば、はるまき、コロッケその他沢山。子どもたちがとっても喜んでいます。たくさんの食品を送っていただけたことにとても感謝いたします。私たち家族の頑張る「力」となっています。

大学生はみんな裕福な家庭の人ばかりだと思っていました。でも、奨学金で大学に行っている人もたくさんいて、奨学金で大学にいけることを初めて知りました。成績がよければ優遇される制度もあることを知り、さらに勉強を頑張ろうと思っています。勉強で分からないところは、わかるまで教えてくれるし、無料だし、とてもありがたいです。

現金以外のかたちでの支援も受け付けています

「寄付は現金でしか受け付けていない」という団体も多いなか、キッズドアでは可能な限り関わっていただける方を増やしたいとの想いから、Amazon「みんなで応援」プログラムを通じた物資の支援や、読み終わった書籍やDVDの「チャリボン」というシステムを通しての寄付など、様々なかたちでの寄付をお受けしています。

また、おひとり身の高齢者の方も増えるなかで、遺贈による現金でのご寄付はもちろんのこと、不動産や株式などの寄付も資金管理の仕組みを通じてお受けしております。こうしたかたちでの寄付を受けられる団体はまだまだ少なく、東京都内でも3団体程度しかありません。

キッズドアを知った方々に、もっと知ってほしいと感じること、伝えたいことはありますか?

日本中で、本当につらい状況に置かれた子どもたちが増えています。しかし、実際につらい環境に置かれた子どもたちに接する機会がないと、そうした現状にはなかなか気が付けないのだと思います。

子どもも親も頑張っているのに、経済的な理由から将来を諦めざるをえない子どもたちが大勢いるなかで、社会の宝である子どもたちがいきいきと成長していける世の中をみんなで実現していきたいと思います。

子どもが元気になると、周りの大人もみんな明るくなります。輝く日本を実現するためにも、日本で暮らす子どもたちの支援により一層取り組んでいきます。

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